マイコン BASIC Magazine 1992/4号より〜
X68000版「グラU」対談〜モアイ佐々木VS山下章

X68000版『グラディウスU』が発売されたのは、2月7日の金曜日。もともと
ユーザーからの要望が強かった作品であり,移植のデキも非常にいいという
ことから、ヒットは確実視されていたが,その売れ行きは発売元のコナミの
予測を上回るものであった。発売直後の土・日曜の2日間だけで,なんと同社の
ヒット作X68000版『出たな!!ツインビー』の累計売り上げ本数を突破。
先着200名にテレホンカードをフレゼントする「アイ・ラブ・グラディウスU」
キャンペーンには,発売初日の消印で数千という八ガキが舞い込んだ。まさに
多くのユーザーの八−トをつかむことに成功したX68000版『グラディウスU』。
この作品に対する制作サイドの思い入れのほどをうかがうべく,
開発チーム・リーダであるモアイ佐々木氏にインタビューを試みた。

開発チームの深い思い入れがヒットを呼んだ!
X68000版「グラU」対談〜モアイ佐々木VS山下章

ユーザー・アンケートが「グラU」の移植を決めた


山下:コナミのX68000用ソフトは,『A−JAX』『クォース』『パロディウスだ!』
 『生中継68』『出たな!!ツインビー』につづいて,『グラディウスU』で6作目を
 数えます。まずは,どうして『グラU』を移植しようと思ったのか,というところ
 から聞かせていただけますか?

佐々木:これはもう簡単な理由でして,ユー ザー・アンケートで常にトップを
 とっていたからです。ボクはサウンド開発からX68000の開発チームに移って
 きたんですが,そのときにユーザーのみなさんからのアンケート-ソフトの中に
 入っているハガキに書いていただいたやつですね,それを1枚1枚読んでいった
 ところ,『グラU』を移植してほしいという意見が全体の7割から8割ほどを
 占めていた。これだけの要望があるんだったら,移植しないわけには
 いかない,ということで,X68000版『グラU』のプロジェクトをスタートさせた
 わけです。


山下:ユーザーのアンケートの結果がちゃんと反映されているわけですね。

佐々木:そうです。X68000版『グラU』は,ハードディスクや,2メガのRAMに
 対応したりしていますけど,こうした要素もアンケートから取り入れたもの
 なんです。


山下:アンケートでの人気が高かったにもかかわらず,これまで『グラU』が
 移植されなかったというのには,なにか理由があるんでしょうか?

佐々木:ひとくちで言えば,移植が技術的に非常にむずかしいということですね。
 なにしろアーケード版『グラU』の基板は,CPUに68000を2個使っています。
 それを,1個の68000で処理しようっていうんだから,かなり高度なことを
 やらなければなりません。去年の春に発売されたX68000版『パロディウス
 だ!』が,まあ小手調べっていうところですか。『パロ』でここまでできるん
 だったら,ということで『グラU』のメドが立ったっていう部分もありますね。


山下:ゲーム・センターでの発売時期が古い『グラU』のほうが『パロディウス
 だ!』よりも高度なことをやっていると―。

佐々木:ええ。X68000版に関しては,『パロディウスだ!』なしに『グラU』は
 生まれませんでした。

合言葉は「マニアをうならせろ!」


山下:X68000版『グラU』に,開発コンセプトのようなものはありますか?

佐々木:とにかく,マニアと呼ばれるみなさんをうならせるような作品を作ろう−
 これですね。アーケード版の『グラU』というのは,大変多くの人に支持して
 いただいた。その期待に応えるような作品に仕上けようと。


山下:USAモード,プラクティス・モード,アーケード・モードと,じつに多彩な
 モードがついていますよね。

佐々木:これは内部的な話になるんですけど,X68000版『グラU』の開発が
 スタートしてから納期までの期間を考えたら,ふつうここまでのスペックは
 入れませんよ。どう考えてもできそうにないですから。それでもやったという
 のは,ここまで入れればマニアのかたがうなってくれるだろう,と。そのぶん,
 我々は眠る時間を削ることになったわけですけど(笑)。


山下:ボクが驚いたのは,最初,編集部に通られてきたサンプル版には,
 俗に「安全地帯」と呼ばれている,敵の弾に当たらないスペースが,まったくと
 言っていいほど入ってませんでしたよね。画面のドット数がアーケード版と
 異なるから,仕方がないのかなと思ってました。早坂さん(広報担当)も
 「あとはバグを取ったり,微調整を施すだけで製品版になります」と言って
 ましたし。ところが,その「微調整」っていうのが,スゴかった。わずかな
 期間で,『グラU』の数々の安全地帯をことごとく再現してくれましたよね。
 うなりましたよ,ホントに。

佐々木:『グラU』っていうゲームは,1人1 人のプレイヤーが,それぞれの
 攻略法を持っていると思うんですね。もしもそれができなかったら,その人に
 とってX68000版『グラU』はNGとなってしまう。だから,可能なかぎり,安全
 地帯とかも残すようにしました。とくに最終面のクラブのところの安全地帯は
 絶村に無理だと言われてたんですけど,担当したプログラマーが,コレを
 入れなければ『グラU』じゃない,って気合いを入れて実現してくれたんです。


山下:攻略ビデオに収録されているプレイも,ほとんど再現できますものね。
 ボクの周りの『グラU』マニアたちも,感動してましたよ。

佐々木:開発チームの中で,よくロゲンカもしましたからね。「これでマニアが
 うなるんか?」「いや,こうしたほうがうなるやろ」って具合いに(笑)。
 ゲーム・センターで『グラU』をプレイした人,ビデオしか見たことがない人
 まったく『グラU』を知らない人−どんな人にでも楽しんでもらえるように,
 X68000版『グラU』を作ったつもりです。


山下:アーケード版の開発者は,X68000版には携わっていないんですか?

佐々木:移植に直接は関わっていません。ただじボクらはアーケード・スタッフの
 残した資料をもとに移植を行なうわけなんですが,その途中でどうしても
 わからないことがでてくる。そうしたら,アーケード版のその部分を作った人に,
 じかに聞きにいきましたね。ところが,だいぶ時間がたっているせいか,
 アーケードのスタッフが忘れてしまっていることもあったりして(笑)。


山下:佐々木さんは,ディレクター的な立場の他に,ミュージックも担当
 したんですよね?

佐々木:いいえ。今回、ボクはプログラマーでした。


山下:えっ?モアイ佐々木と言えば、コナミを代表するゲーム・ミュージック・
 コンポーザーの1人だったはずでは……?

佐々木:最近,仕事の内容が変わったんです。

山下:失礼ですが,佐々木さんは,ゲームのプログラムの経験は
 あったんですか?

佐々木:いいえ,今回がはじめてですよ。

山下:はじめてで『グラU』ですか?

佐々木:もちろん,ボクが1人でやったわけではありませんから(笑)。でもね,
 ミュージック・プログラムなんかは今までもやってきたわけですし,基本的な
 考えかたさえ理解していれは、X68000で『グラU』をプログラミングすること
 にも対応できるんですよ。


山下:すごい‥‥‥。ひょっとしたら佐々木さんって,天才プログラマーの
 素質があるんじゃないですか?

佐々木:そんなことないですよ(笑)。

プレイした感覚を重視した移植

山下:X68000に移植するときに一番むずかしかったのは,どのステージ
 ですか?

佐々木:先ほども言ったように,アーケード版はCPUに68000を二つ使って
 いるんですが,多くの場面では,わりと余硲のある使いかたをしているん
 ですね。だから,プログラムの組みかたを考えていけば68000がひとつでも
 なんとかなる。ただし,たとえば人工太陽面やモアイ面,それにクラブが
 でてくるシーンでは,二つの68000をフルに稼動していまして,そのあたりに
 なると,アーケード版と100パーセント同じプログラムというのは,まず不可能
 ですね。X68000版では,多少,重くなっている(=スピードが遅くなっている)
 シーンがそこです。そうしたシーンでは,プレイしていて同じ感覚になるよう
 にと,工夫して作っています。


山下:アーケードとX68000とでは,画面のドット数がちがいますよね。
 そのへんも苦労されたんじゃないですか?

佐々木:そこが一番悩んだところでして,アーケード版のドット数が320×224。
 X68000版は256×256。したがってX68000版は左右が画面からはみ
 だしてしまうんですが,基本的にゲーム性を損なわない方向で考えました。
 ゲーム中,プレイヤーの人たちの目線は,画面の右端―つまり,スクロールの
 前方から敵が出現するポイントを見ていると思うんですね。だから,画面の
 左端を少し削ってでも,右端からの敵の発生ポイントを合わせてあります。
 スクロールが停止する場面−ボスキヤラとの対決のときなどは,プレイした
 感じがもっとも近いように画面の位置を決定しています。


山下:そこまで気づく人も少ないでしょうけど,なるほどねえ。何から何まで
 100パーセントの移植というのは,そうできるものではないでしょうから,
 プレイした感覚を近いものにするっていうのは,すごく大事なポイントですよね。

佐々木:今回の開発チーム,それからアーケード版『グラU』開発チームの
 中にもX68000マニアがいましてね。うるさいんですよ,これが。でも,非常に
 ユーザーに近い意見なわけですからね−X68000版『グラU』では,それが
 かなり生かされました。

X68000は作る側を鍛えさせてくるハード


山下:佐々木さんのX68000というハードに対する印象は,どんなものですか?

佐々木:まず,『グラディウス』のようなシユーティング・ゲームを開発する
 のには,世界でもトップレベルのマシンですよね。


山下:『グラディウス』に合わせて設計された,なんて噂もありますね(笑)。

佐々木:それから,作る側を鍛えさせてくれるユーザーが多いとでも言いま
 しょうか。これがX68000の一番の特徴でしょう。かつてMSXでも,コナミは
 ユーザーをうならせることをいつも考えていたわけですけど,X68000では,
 こちらが相当に鍛え上げられないとユーザーをうならすことができない。
 あと……


山下:あと……?

佐々木:やっばり,発売から5年たった今となっては,スペックをもう少し上げて
 ほしいな,というのがあります。発売当初は,当時のアーケード・ゲームの
 基板を上回るほどの性能を持っていたわけですから。


山下:ちまたで噂されている32ビット機がほしいところですよね。

佐々木:『ゼクセクス』がそのまま移植できるようなスペックだったらうれしいん
 ですけど(笑)。現在のX68000では,『グラU』でほとんど限界に近いんじゃ
 ないですかね。


山下:ところで,コナミは非常に幅広い機種に対してソフトウェアを発売して
 いますよね。スーパーファミコン,ファミコン,ゲームボーイにはじまって,
 PCエンジン,そしてパソコン……。少々シビアにとらえれば,スーパー
 ファミコンで新作1本発売するのと,X68000などのパソコンで発売するのと
 では,利益がまったくちがうと思うんですが……。だから,パソコンから
 コンシューマ系に移っていったソフトハウスも少なくない。そうした状況で,
 パソコン用ソフトをだしつづけるというのは,何か目的があるんでしょうか?

佐々木:そうですね,単純に利益だけを追求するんだったら,コンシューマ系の
 ほうが 有利なことはまちがいないですね。ただ,ボクらの気持ちとして,より
 多くの人にウチのゲームを楽しんでもらいたいというのがある。それに,いろ
 いろな機種で開発することによって,技術研究できるということもありますし。


山下:CESでコナミのブースを見ると,アメリカでもゲーム機以外に,パソコン用
 ソフトを数多く発売しているみたいですね。

佐々木:コナミが目指しているのは「総合ソフトウェア企業」なんです。これ
 からも,できるだけ幅広い機種で,ソフトを開発していきますよ。矩形波倶楽部
 のCDなんかも「音楽のソフト」という捉えかたをすれば,「総合ソフトウェア
 企業」という目的にマッチしたものなんです。

コナミのX68000用次回作は・・・・・?


山下:それでは最後に,X68000ユーザーがもっとも期待している次回作
 なんですが‥‥‥。

佐々木:教えられません(笑)。

山下:ヒントだけでも。

佐々木:逆に,山下さんが移植してほしいゲームはなんですか?

山下:‥‥そうですね,まず一番移植してほしいのが,MSX版『グラディウス2』
 ですか。『ネメシス’90』(SPSがこのタイトルで
X68000版を発売する予定
 だったが‥‥)の発売が無期延期になってしまっている以上コナミが
 『グラディウス2’(ダッシュ)』とかいうタイトルで作るってのはどうですか(笑)。
 あのゲームを待ち望んでいるユーザーは多いと思うんですけど。

佐々木:(苦笑)


山下:それから,個人的にほしいのがアーケード版『悪魔城ドラキュラ』。
 決していいゲ ームとは言えないと思うんですが,あのグラフィックと
 サウンドは光ってましたよね。ゲーム・センターでプレイしたら怒るかもしれない
 けど,パソコンでならって気もします。

佐々木:ファミコン版の『ドラキュラT』をバージョン・アップして移植してほしいと
 いう声も多いですね。


山下:そうでしょうね。他にも,売れないかもしれないけれど,『恋のホットロック』
 『ライフフォース』あたりがほしいですね。『恋のホットロック』のBGMがMIDIで
 聴けるっていうだけで,ボクは買っちゃう(笑)。

佐々木:あの音楽は,ビートルズとかマドンナとか―版権ものですよね。ああいう
 曲を作る機会はあまりないんで,楽しんで作らせてもらいましたよ。


山下:『ホットロック』の曲って,著作権関係はクリアしてるんですよね。

佐々木:ええ。ちゃんと許可を得てます。

山下:じゃあ,お金のかかってるゲームなんですね(笑)。

佐々木:ええ(笑)。

山下:あと,これは絶対行けるってところでは,MSXの黄金期に発売された
 一連の作品を,X68000用にグレード・アップしていただきたいですね。
 『F1スピリット』や『スペースマンボウ』−おっと大事なのを忘れてました,
 『スナッチヤー』ですよ,やっばり。ストーリーがちゃんと完結するパーフェクト版
 『スナッチヤー』,ああ,コレが一番ほしい。

佐々木:どんな作品でも,どんな機種でも,今後開発する可能性はあると
 思います。まあ,楽しみにしていてください。そして「総合ソフトウェア企業」
 としてのコナミの今後に期待していてください。


山下:わかりました。では最後にベーマガ読者に何かメッセージをお願いします。

佐々木:はい。ベーマガを読んでいるみなさん,もう見つけた人も多いかも
 しれませんが,X68000版『グラU』には,ある「隠し」が用意してあります。
 それを見つければ、さらに楽しくゲームが遊べるはずです。ぜひ見つけて
 ください。それから,プレイして感じたことがありましたら,開発までどしどし
 お便りをください。ボクらは,みなさんのお便りすべてに必ず目を
 とおしますので。 
(1992.2.12・コナミにて)